商売
「どや、調子は」
「あ、兄貴。すんまへん。見てのとおりさっぱりですわ」
「なんやて。もっと気合入れんかい!」
「そんなこと言われたかて・・・だいいち今どき羽毛布団なんか誰も買いよりませんで」
「アホ! 駆け出しのくせに、いっぱしの口きくんやない!」
「そやかて、この不景気やし・・・」
「ドアホ! 硬い財布の紐を、なんとかこじ開けるのがワシらの腕の見せ所ちゅうもんやろが」
「そらまあ・・・」
「それや。そのしけた面からして落第や。さもしい根性丸見えやから客に逃げられんのじゃ」
「・・・・・」
「ター公。おまえコレ、二束三文の安物や思うてないか?」
「・・・そやないんですか?」
「ボケ! そこからして間違うてる。誠意が足らんっちゅうねん」
「誠意・・・でっか?」
「そや。インド綿詰めただけのペコペコの安物を、そうとも知らずに三十万も出して買わされる客の身になってみぃ。せめて大枚はたく時ぐらい気持ちよう夢見させてやるんや。それが誠意っちゅうもんやろが」
「はあ・・・」
「なんとか騙したろっちゅうさもしい性根なんぞ、すぐに見透かされてしまう。大阪のオバんをなめたらあかんど」
「でも・・・しょうみの話、騙すんやおまへんか?」
「しゃあないやっちゃなあ。そやからいつまでたっても半人前やっちゅうねん」
「・・・・・」
「ええかター公、世の中にはな、しょうむない多宝塔や訳のわからん額縁を何千万もで売りさばいてる連中もおる。それも相手に頭下げさせ嬉し泣きすらさせて買わしよるんや。そういう連中と、たかだか三十万の羽毛布団すら満足に買わしきらんワレとの違いは何やと思う」
「・・・・・」
「奉仕の心や」
「奉仕・・・でっか?」
「そや。相手のために心から良かれと思う真心や」
「ま・・・まごころ・・・」
「そや。その真心さえあれば、このペコペコ布団も、ふっかふかの羽毛布団に見えてくるはずや。一組百万円の、ほんまもんの最高級品にな」
「百万!」
「そや。とてもその辺のオバん風情が手にとっておがめるもんやない。それでもわしらは庶民の味方や。毎日苦しい中、なんとかやりくりしてるオバんのために泣く泣く出血大サービスの値段で奉仕してるんや」
「・・・・・」
「ええ話やないか。リストラに怯えなから過労死もいとわんと夜遅うまで働いてる亭主に、借金してでもええから、せめて夜だけでもふっかふかの高級布団でぐっすり眠らしたりたいゆうオバんの真心・・・その真心には、こっちも精一杯の真心で応えんとの」
「・・・・・」
「どや。ほんまもんの羽毛布団に見えてきたか?」
「な・・・なんとなく」
「それではまだまだや。なんでこんな最高級品を、あんなシンコ臭いオバん連中にただ同然でくれてやらなあかんねんと、そこまで思い詰めなあかん。そこまで思い詰めて初めて、ほんまの奉仕の心が生まれるんや」
「ほんまの奉仕・・・」
「そや。損得抜きでオバんの喜ぶ顔が見たい。わしらを衝き動かしてるのは、ただそれだけなんや。分かるか?」
「・・・・・」
「ままええ。とにかく奉仕と真心や。きばりいや」
それから二時間後。
「どないや、調子は」
「はぁ・・・・・」
「なんや、まださっぱりかいな。奉仕と真心やゆうて、あれほど『兄貴・・・わし、そのことずっと考えてたんですけど・・・」
「なんや」
「わし、この仕事に向いてないんとちゃうやろかって・・・」
「・・・・・」
「わし、とても兄貴みたいには『しもた!
よけいなことゆうてもた。この商売の極意をワレに授けるには、ちょっと早すぎたようやの」
「それになんや自信ものうなって『まぁええから、今日はもうしまいにし。この商売に迷いは禁物やさけのう」
「・・・・・」
「もう早よ寝。クソして寝ることや。誰にも迷いはある。あんまり考え込まんこっちゃ。ええな」
「そやけど・・・」
「しゃあないなぁ・・・わかった! ええ先生紹介したる。ワシの師匠や。何でも相談にのってくれる。明日にでもさっそく行ってみ。元気が出てくること請け合いやさけ」
その後ター公は、その占い師から厄除けに金ぴかの恵比寿人形を五百万で購入させられたという。