商売 2
「どや。荷造り、でけたか?」
「こっちはもうすっかり・・・あ、電話はどないするんでっか、兄貴」
「そのままにしとき。留守電にしてな」
「でも、明日ぐらいからじゃんじゃん苦情電話かかってきよりまっせ」
「そやから、まだ会社はあると思わせるんや。急に電話が通じんよなったら、お客さんに失礼やろが」
「なるほど。いっぱい食わされたと気づいたときには、すでに事務所はもぬけの殻・・・」
「そや。発つ鳥後を濁さずゆうてな。なんでも仕上げが肝心なんや」
「・・・でも、なんや気の毒なような気もしますね」
「なにがや」
「そやかて、こんなメリケンこねただけのヤセ薬に何万も・・・」
「あほ! 詐欺師がカモに同情してどないすんねん。そやからワレは『わかってま」
「わしら客に世間の厳しさっちゅうもん教えたってるだけやいうんでっしゃろ?」
「そや」
「甘ちゃん連中に貴重な社会勉強させたってんねんから、そこそこ金とってどこが悪いと」
「そうや」
「本気で痩せたかったら、こんなマガイモンつかまされる前に、テレビの前で寝そべってへんで外でも走ってきさらせボケ!・・と」
「ワレ・・・一皮むけたな、ター公」
「そりゃもう・・・へへへ・・・ところで兄貴、次の仕事は・・・」
「心配せんでええ。すでにネタは仕込んでる」
「さすがは兄貴。今度も通販でっか? モノはなんです? エロビデオ? 健康食品? でも、羽毛布団やったらもう『ちゃうちゃう。そんなもんやない。これからはな・・・コレの時代や!」
「こ、これは!・・・パ、パソコンやおまへんか」
「そうや。インターネットちゅうの、ワレも知ってるやろ。わしらも本格的にネットビジネスに参入するんや」
「ネットビジネス・・・でっか?」
「そや。わしらの新しい檜舞台や。いよいよサイバーの大海原に乗り出すんや。どや、わくわくせえへんか?」
「・・・・」
「考えてもみい。ダブルクリックもおぼつかんような爺さん婆さんまでが遠くの孫とメールをやり取りしたがる時代や。いわばデスクトップの向こうは、右も左もわからんカモネギだらけになってくるんや」
「そ・・・そうでんな」
「なんや頼りないなぁ・・・まあええ。コレ貸したるさかい、勉強しとき。次の事務所に移るまで、まだ間があるさかいの」
「せやけどワシ・・・機械、苦手やから・・・」
「しゃあないやっちゃなぁ・・・よっしゃ! ええ先生紹介したる。わしの師匠や。接続から設定まで何でも教えてくれるでぇ。なんちゅうても現役ばりばりのハッカー様やさけの」
翌月、ター公は信販会社から届いた利用代金明細書を見て青くなったという。
インターネットに接続できたはいいものの、何時の間にかカード番号を盗まれていたのだ。