商売4



 「どや、調子は」

 「あ、兄貴」

 「DM(ダイレクトメール)、でけたか」

 「もうじきですけど・・・さすがに2万枚ともなると大変でんな」

 「ほんまは10万はバラ撒きたいとこやけどな。わしら零細には資金も人手もないさけの」

 「せやけど兄貴、こんなうまい話に乗ってくるアホ、ほんまにおるんですか? わずか半年で元手が倍になるやなんて・・・しかもこんな底なし不況のご時世に・・・」

 「アホ! 底なし不況ちゅうても金が動いとらんだけの話で、本来あるところにはぎょうさん眠ってるんや。その塩漬けにされた金を日本経済の只中に解き放ってやるのがわしらの使命なんや」

 「さすがぁ兄貴、うまいこと言いまんな。でも、この宛先、ぜんぶ主婦ばっかりでっしゃろ? そんな金持ってるようには・・・」

 「どアホ! お前わしの下でいったい何学んできたんや。ええか、わしらの一番のお得意さんはな、からっけつの貧乏人でもなければ札びらでケツ拭いてるような高額納税者でもない。十万、百万単位の小金をせこせこ貯め込んでるフツーの一般庶民や」

 「そやったら、そんなセコい一般庶民が虎の子の貯えをこんなうまい話に・・・」

 「そこがなんちゅうても小金を貯め込んでるもんの悲しさや。分からんか? いくら貯め込んでも小金は小金。ましてやいつ亭主がリストラされてもおかしゅうない先の見えん時代や」

 「なるほど・・・つまりは中途半端に貯め込んでるやつが一番のカモと」

 「そや。要は金を使わせるんやない。金を増やしてあげますよのサービス精神や。それさえ押さえとけば10円安い大根に目の色変える主婦が、硬いはずの財布の紐をおもろいようにガバガバ開きよる」

 「政府やアホな役人連中も、そこんとこが分かってないから、いつまでたっても金が動かんどん底不況のまま・・・むしろそんな時代やからこそ、わしらの出番と」

 「そや。だいぶ分かってきたやないけ、ター公」

 「言うてみたらわしら、民間で経済対策やってるようなもんでんな」

 「そうや。せやけど、お前も二度とネットオークションなんかに引っかかるんやないで。詐欺師がカモられてもシャレにもならんさけの」

 「わかってま。"儲け話、儲けるのはネタ元だけ"・・・と」




 こうして兄貴とター公は架空の投資話で首都圏の主婦層からおよそ3000万円を荒稼ぎした。
 中には家族に内緒で自宅を担保に借金した数百万をそのままつぎ込んだ者もいた。
 ター公がたまたま家に持ち帰っていたチラシを目にした彼の母親もまた、その一人であったのは言うまでもない。