商売3
都内の某インターネットカフェ。
「どや、調子は」
「あ、兄貴」
「あたりはどうや」
「はぁ・・・たった35人ですけど」
「35人? 上々やないけ」
「そやけど兄貴、これでも2日がかりで二百からの掲示板に書き込んだんでっせ・・・そやのにたった『アホ、ぜいたくゆうんやない! こんな底なし不況の中、食い付いてくれただけでありがたいと思わんと」
「そんなもんですか」
「そや。ぶつぶついわんと、きっちり、この文面どおり返信しとき。例の"あすか"ちゃんの名前でな」
「はぁ・・・『おめでとうございます。厳正なる審査の結果、当会募集の新規メンバーに貴方が選ばれましたので、次回の秘密パーティーの場所と日時をお知らせします。五反田駅前〇〇ホテル一階ロビー、五月十八日午後六時。時間厳守でお願いします。なお、その際、入会金の支払いを確認するための振込証の控えを必ず持参してください。これが無いと入室をお断りしなければなりません。入会金の振込先銀行口座は以下のとおりです・・・』さすが兄貴! いかにも・・・って感じに仕上がってますね」
「そやろが。ちゃんとソレらしい場所と日時を指定して振込証の控えまで持参させるところがミソや」
「ほんまでんな。これやったらマジで乱交パーティーやってるように聞こえますもんね」
「そや。振込んだ時点で後の祭りやゆうことも気づかんとな」
「くっくっくっ・・・」
「それから渋谷で撮ってきた素人女のナマ写真、あれも忘れんと添付しとくんやで」
「わかってま・・・・でも・・・兄貴」
「でも、なんや」
「これやったら、もっとイケるんとちゃいますか?・・・せめて一人あたま三万くらい」
「どアホ! 欲かいたらあかん。商売は薄利多売がキホンや」
「そやけど『ええかター公。モノの値段には"落としどころ"というもんがある。安すぎても高すぎてもあかんのや」
「はぁ・・」
「ことに詐欺師の場合、とことんカモの立場になって考える気配りも必要や。食い付いてきたこの35人にしてからが、乱交パーティーなんか未だ半信半疑のやつがほとんどやろ。それに多少の後ろめたさもあるはずや。影でこそこそ女とやりまくりたい、でも騙されるものいやや。そんなごく普通のセコいスケベの財布を実際に開かせ、なおかつ泣き寝入ってもらえるそこそこの値段、それが入会金の一万五千円や。分かったか」
「さすがぁ兄貴。そこまで考えてはるとは・・・でも・・・」
「なんや、まだあるんかいな」
「大丈夫ですよね? ・・・パクられるようなこと、ないですよね?」
「ター公。ワレ、何のためにこんな辛気臭いとこでパコパコやってると思てんのや?」
「そ、そうですよね。それにネット上には、もともとバーチャル"あすか"ちゃんしかいてへん訳やし・・・」
「そうや。ネットカフェとホットメール、それに銀行の架空口座はネット詐欺の三点セットや。たとえサイバーポリス辺りがのこのこ乗り出してきてもわしらの事は絶対分からへん。アシのつきようがない。心配せんでええ」
「ソレ聞いて安心しましたわ。なんせこんなやり方、わし初めてやさかい・・・」
その後、二人は同様の手口を繰り返して首都圏在住の五百数十名から総額八百万余りをまんまと騙し取った。
が、そのほとんどを、ター公は兄貴に内緒で、とあるサイトのネットオークションにつぎ込んでしまったという。
落札したはずの"BMW-M5"がター公の元に届かなかったのは言うまでもない。