へそ曲がり
えーーー。
いつの世にも"へそ曲がり"というのはいるもんで。
普通は人様と同じ事をしてみたくなるのが人情、てなもんですが、それでは気に食わん。
多少バリエーションをつけて個性を出すくらいなら可愛いもんですが、何かにつけて人とはまるっきり正反対のことをやってしまう。それものべつまくなく。
それでも全然悪気はないんですから、まことにもって因果でやっかいな性格です。
そんな性格ですからその男、社会とそりが合わず仕事にあぶれ空腹にも耐えかねて、ふと魔が差したというんでしょうか、空き巣に入ってしまうんですな。
が、入った先が悪かった。
空き巣狙いといえば金品探してさんざん家の中を引っ掻き回すもんですが、その家は、引っ掻き回そうにもこれ以上引っ掻き回せんというくらいの尋常でない散らかり様。
金品はおろか、家の中全体がゴミ置き場状態。
普通なら、こんな家には早々に見切りをつけて退散するもんですが、そこがへそ曲がり。
なんと家の中の散乱した品々をせっせと片付け始める。
誰に頼まれた訳でもないのに、独りニヤニヤ呟きながら。
"わしぐらいなもんやろな。空き巣に入って物も取らんときれいに片付けてやるのは"
そこが快感なんでしょうな。
で、小一時間後、またご丁寧にも窓から外に出ようとした瞬間。
間の悪いことに警邏中の警察官に見つかってしまう。
「泥棒!!」
てなもんで、普通は泡食って逃げ出しますな。
でもそこがやっぱりへそ曲がり。
「誰が泥棒じゃ!!」
逆に凄い剣幕で警官に突進して行きます。
それを見た警察官、青くなって逃げ出したから話がややこしい。
逃げる警官、追う空き巣。まるっきり逆ですな。
でも当のへそ曲がりにとってはこれほどの快感はない。
「こらっ! 待たんかい!!」
とばかりに走りに走り、ぜいぜい息つく警官にタックルかまし、とうとう羽交い絞めにしてしまう。
「おまえ警官やろ、何で逃げたんじゃ!」
と、ぎゅうぎゅう締め上げ白状させると案の定ニセ警官。
警邏の振りして空き巣狙いの仕事先を物色中だったんですな。いわばご同業。
それは相手も分かってますから
「へっ、お前にわしを突き出す事が出来るんかい」
と、筋金入りのへそ曲がりを前にして逆に居直ったのが運の尽き。
もちろん男は嬉々としてニセ警官を最寄の警察署にしょっ引いていきます。
相手の告発で、当然自分も一緒にお縄になるとは知りながら。
が、実際には何も"窃取"していない住居侵入罪のみ。
加えてニセ警官を挙げるというお手柄もあって、裁判では情状酌量による執行猶予。
普通なら目出度し目出度しで一件落着なんでしょうが、そこがやっぱりへそ曲がり。
「なんでやねん。罪は罪やろが」
と、被告人席から裁判官に逆に説教してしまう始末。
「情状酌量やなんて、わしがいつ頼んだ。え?」
と、いやが上でも話をややこしくしてしまいます。
それでもいったん下した判決を曲げる訳にもいかず、男は早々に裁判所からたたき出されます。
もちろんそれで引き下がるような並みのへそ曲がりではありません。
あろうことか、五メートルもある塀に外から梯子をかけて乗り越えてしまうんですな。
"わしぐらいのもんやろな"
と、例によって独りニヤニヤほくそ笑みながら。
"刑務所の塀を逆向きに乗り越えるのは"
で。
建造物侵入罪。
今度こそ男は目出度く懲役一年。
今では、ありがたく日に三度の飯にありつきながらも
「きりきり働きや」
と、刑務官たちに口やかましく説教を垂れる毎日だそうで。
「そやないと、何べんでも塀乗り越えて戻ってきたるでぇ」