夏休み



 夕食を済ませお風呂に入ると二人は浴衣に着替えます。
 庭に出ると昼間あれほどうるさかったセミも鳴きやんで涼しい夜風が頬をなでていきます。
 でも、まだまだ遊び足りない二人は昼間駄菓子屋で買ってきた花火の束を取り出します。
 まずはねずみ花火。
  
  しゅるるるるるるるるるるるるるパン!

 その度に妹が悲鳴を上げて庭を逃げ回ります。
 次はへび花火。

  にょろろろろろろろろろろろろろ

 真っ黒なへびがとぐろを巻いて伸びていきます。
 飼い犬のポチはおっかなびっくりでその塊を鼻先でつついています。
 そして最後は線香花火。

  パチパチパチパチパチチチチチ

 オレンジ色の光が弾け最後は赤い雫となって落ちていきます。
 その不思議な光に四つの幼い眼は魅入られたように釘付けです。

 「終わったら、ちゃんと片付けときなさいよ」

 見ると母さんが縁側から微笑んでいます。
 手にした盆の上には三角に切り分けたスイカの山。

 「はぁーーい!」

 二人は手早く火の始末をしてから我先に真っ赤な果肉にかぶりつきます。
 よく冷えた甘い果汁が口いっぱいに広がり渇いた喉を潤してゆきます。
 縁側に投げ出した足をぶらぶら揺らせシャクシャクと掻き込みます。
 もちろん種は庭先に吹き飛ばします。

  ぷっ!・・・ぷっ!・・・・ぷぷっ!

 兄に負けじと妹も精一杯頬を膨らませて飛ばします。
 しまいには二人してスイカの種でポチを狙い撃ちです。
 ポチもその度に尻尾を千切れんばかりに振って庭先を駆け回ります。

  ちりーん

 そんな二人を見下ろしていた軒先の風鈴が夜風にゆれ涼しげな音をたてます。
 縁側に置かれた瀬戸物の"蚊取り豚"の鼻先からは、ゆらゆらとほのかな紫煙が立ち上っています。 

  ちりちりーん 

 その音は二人にこう囁きかけてるようです。

  "もうおやすみ。明日も思いっきり遊べるように"

 すでに居間には床がしかれ若竹色の蚊帳が張られています。
 蚊が入り込まないように蚊帳の裾をそうっと上げて、二人は素早く中にもぐりこみます。
 微かな麻の香り漂う中はまだ幼い兄と妹だけの四角い秘密基地のようです。
 電気が消された後も二人はきゃっきゃ言いながらしばし枕を投げ合っています。
 でも、やはり昼間さんざん駆け回った心地よい疲れはすぐに二人を夢の世界にいざないます。
 
 その夢の世界では、二人は今も河原や神社の境内や雑木林を走り回っているのかもしれません。
 二人の机の上に広げられた絵日記のページそのままの鮮やかな赤と緑と黄色の原色の世界を。
 明日は父さんと母さんが海に連れて行ってくれる約束です。
 明日の絵日記には青のクレヨンが大活躍しそうな予感。
 でも、夏休みはまだ始まったばかりです。
 いつもあっという間の夏休み。
 でも始ったばかりなのです。











七月二十八日(きんようび) はれ
 あさおきるとおばあちゃんが死んでいた。
 九十三さいだった。