商売8



 「またやりよりましたな! 阪神タイガース!」

 「・・・・」

 「あれ? どないしたんです兄貴。嬉しないんですか?」

 「あほっ! はしゃいで"食い倒れ人形"道頓堀に放り込むだけが阪神ファンやない!」

 「しみじみと感慨にひたっとったんじゃ」

 「感慨・・・でっか」

 「そや。あのダメ虎がとうとうホンマもんの猛虎になりよったってな」

 「そうでんなぁ。変われば変わるもんでんなぁ」

 「あの、踏まれても蹴られてもニャアとも鳴かへんかったヘボチームが今では巨人を子ども扱いや」

 「ホンマ、強うなりましたなぁ」

 「それに引き換え・・・ワシらはどうや?」

 「え?・・・」

 「こないだの振り込め詐欺では元手も回収できん大赤字」

 「・・・・」

 「挙句はヤクザに借金までこさえて、こうして地方の温泉宿を転々とする始末」

 「な・・・なにが言いたいんです?兄貴」

 「・・・潮時や」

 「え?」

 「ター公。ワレ、足洗い」

 「え?・・・足洗うて・・・」

 「ワレはまだ若いさけ、やり直しもきく」

 「そ・・・そんなぁ! 兄貴ぃ『まぁ聞かんかい」

 「いったんこの世界に入って一度でもええ思いすると、なかなか足が洗えんようになる」

 「真面目に働くのがアホらしゅうなるからや」

 「そんだけ当たれば儲けはでかい。そやけどなぁ、そんな金はいくら稼いでも身につかん。みんなあぶくゼニや」

 「小手先で儲けた金は小手先をも素通りしてしまうんや」

 「それになぁ、いくらへ理屈こねても所詮は小悪党。いつかはヘタ打って両手が後ろにまわるんが落ちや」

 「どや? そんな人生、送りとうないやろが」

 「・・・・」

 「わしはホンマ、ワレのため思て・・・なんやワレ、聞いとんのか?」

 下を向いたまま肩を震わせているター公。

 「な・・・泣いとんのか? ター公」

 「兄貴ぃ! 見捨てんといてください! このとおりです!!」

 ガバッと突っ伏すター公。

 「ホンマに自分、ドジでおっちょこちょいで・・・いつも兄貴の足引っ張ってばかりで・・・」

 「そやけどワシ・・・兄貴に見放されたら・・・どないしたらええのかワシ・・・」

 しゃくりあげる言葉。
 畳の上にぽたぽた落ちる雫。
 腕組みしたままま、じっと考え込む兄貴・・・
  

 が。
 朝起きると兄貴はいなかった。
 ター公の枕元には一通の紹介状と書置きが一言。

  "心入れ替えて真面目に働くんやで"

  兄貴ぃ・・・


 が。
 傷心のター公が紹介された先は宿泊中の温泉旅館であった。
 支配人は兄貴の紹介状を開くなり青筋立ててこう吐き捨てた。
 
  「なんやあんたら無銭宿泊かいな!」

 六日分の宿泊費計14万6200円を請求されたター公は、結局そこで当分の間臨時雇いの皿洗いをやらされるハメになった。


 が。
 数日後。
 ター公の携帯にあの懐かしいダミ声が轟いた。

 「なんやワレ、まだそこにおんのんか!?」

 「早よ抜け出してこんかいボケッ!」

 「もう次の仕事の段取り始っとんのじゃ。次は"出会い系サイト"やるでぇ」