商売10



 「あけましておめでとうございます。兄貴」

 「あ、おめでとさん」

 「今年こそ一攫千金、濡れ手に粟だったらええでんなぁ」

 「まぁ望み薄やろな」

 「そんなぁ・・・新年早々兄貴らしゅうもない弱気でんな」

 「ボケッ! 誰が弱気にさせとんのや? おどれのサイトでカマされたアホはどこのどいつや!」

 「す、すんまへん!」

 「まぁそれでもター公、あながちワレのせいだけでもないんやけどな」

 「・・・・」

 「もともと過当競争なんやこの業界は」

 「そうでっか」

 「きょうび堅気と詐欺師の境目が完全にのうなってしもて、早い話、公務員が片手間にサイト立ち上げワンクリック詐欺で小遣い稼ぎやる時代やさけな」

 「そうなんでっか? そやったらワシらも詐欺師がてら役所勤めでもやりまっか」

 「ドアホッ! おどれにはプロのプライドがないんか? その辺のドシロウトに縄張り荒らされて悔しないんか?」

 「そりゃあ・・・」

 「そやったら、なんかこれはっちゅう新手の詐欺でもひねりだしてみんかい!!」

 「新手の詐欺でっか?」

 「そや。二番煎じはあかん。すでに先客万来やさけの」

 「完全にオリジナルの、業界に衝撃が走るようなヤツでないとあかん」

 「業界に衝撃・・・でっか?」

 「そや。例えばあの、一世を風靡した振り込め詐欺のルーツ、覚えてるか?」

 「オレオレ詐欺でっしゃろ」

 「そや。あれなんか業界に地殻変動の激震を引き起こしたクチや」

 「おおげさでんな」

 「ボケッ! せやからワレは時代に乗り遅れるんや!」

 「ええか。あんなアホみたいな手口に人が引っかかるとはそれまで誰も思いもつかなんだ。それだけ画期的なことやった」 

 「そやから、あんなんやったらワシでもでける、そんなドシロウトがどっと新規参入して、結果があの振り込め詐欺のオンパレードや」

 「以来、プロもシロウトも入り乱れ、なんでもアリの仁義なき過当競争時代に突入や。言わばこの業界にも構造改革の嵐が吹き荒れとんのや」

 「はぁぁ・・・さすがぁ兄貴! 完全に時代を読み切ってまんなぁ」

 「そやろが。せやから、そんな時代にワシらみたいな老舗(しにせ)が活路を開くには人にマネでけん技で勝負するしかないんや」

 「町工場の匠(たくみ)の技でんな」

 「お、たまにはええことゆうやんけター公」

 「へっへっへっ・・こう見えて江戸川経済新聞、とってまっからな」

 「そんなんあんのか?・・・まぁええ。わかったら早よ考えんかい!!新手の詐欺商法」

 「そんなこと言われたかてそう簡単に・・・兄貴も知恵出してくださいよ」

 「わかってる。そやけどこうゆうのはシロウトの発想が大切なんや。なまじ業界で経験積んどると頭が硬うなってなかなかええアイデアが浮かばんのや」

 「せやけどワシもプロでっせ」

 「ドアホッ! シロウトに毛ぇ生えたようなもんやろがワレは!」

 「あのオレオレ詐欺にしてからが完全にシロウトの発想や。それが見てみぃ、業界の勢力図を完全に塗り替えよった。シロウトをなめたらあかんど!」

 「そやけどもともとは事故みたいなもんだったそうでんなアレ」

 「なんのこっちゃ」

 「アホな学生が金がのうなって田舎に仕送りを頼んだそうです。ほんで翌日ちゃんと振り込まれてるのを確認してお礼の電話をかけると当の母親は何のことや?と聞きかえしたそうです。それがオレオレ詐欺の正味の発端らしいでんな。知ってはりました?」

 「なんや・・・それも江戸川なんたらいう『江戸川経済新聞」

 「兄貴もとったらどないです? ためになりまんでぇ」

 「なんやワレ。いつから新聞の勧誘員になったんや」

 「バレてました? へっへっへっ・・・ほんの小遣い稼ぎでんがな」

 「ダボッ! そんな暇あったら知恵絞らんかい!!」



 もちろんそれから一心に知恵を絞ったター公。が・・・
 やっとの思いでひもねりだした数々のアイディアもことごとく兄貴にボツにされ
 苦し紛れに手を出したのが、やはりというか江戸川経済新聞の広告で目をとめた開運ペンダント(一個二万五千円)であった。

  詐欺師も人の子
  苦しいときの神頼み・・・

 そんな子分にほとほと愛想を尽かしたのか兄貴は急に無口になった。
 ター公を例によって頭ごなしに怒鳴りつけることもなくなり、上の空で独りぶつぶつ呟いていることが多くなった。
 そんな様子に不審を抱いたター公が、ある日兄貴の後をつけていくと、吸い込まれるように一軒の民家に入っていった。
 何の変哲もない唯の民家だったが、そこには大勢の人たちが後から後からぞろぞろと入っていった。
 そして中からは聞いたこともない呪文のような唱和が不吉な地鳴りの如く聞こえてきた。
 時折、キエーーッとかドリャーーッとかいう悲鳴ともおらび声ともつかぬ咆哮さえ混じっていた。

 「いったい・・・」

 電信柱の陰からそっと様子をうかがうしかないター公。

 「どないなってはりまんの?・・・兄貴ィ」

 その胸元にも何か不吉な予感がじわっとこみ上げてきていた。