商売12



 「いゃあーー、あぶなかったスねぇ兄貴ぃ」

 「アホ! わしがほんまにあの古狸にばかされたと思うたんか」

 「せやけどしょうみ、兄貴どうにかなってましたで一時」

 「ぜんぶ計算ずくや。敵を欺くにはまず味方から言うやろが」

 「はぁぁ・・・そやったらアレ、全部演技でしたんでっか?」

 「そや。敵の内懐に飛ぶ込むにはそれくらいの周到さが必要なんや」

 「それぐらいせんと、あの古狸はすぐに見破ってしまう」

 「せやけど自分にはただのおばちゃんにしか見えまへんでしたけど・・・」

 「ダボッ! それが怖いところや。そうやって気ぃ抜いて接してるうちにいつの間にか洗脳されてしまうんや」

 「ぎょうさんの信者ワレも見たやろが。アレ全部、魂ごともってかれた連中や」

 「確かにメロメロでしたな。あのおばちゃんがキェーーとかドリャーとか叫ぶたびに吹っ飛んでましたもんな」

 「それが宗教の怖さや。人を丸ごと引っこ抜いてしまう。丸ごともっていくんや」

 「せやけど、あのおばちゃんのどこにそんな力があるんでっか? 早い話、ただの占い師でっしゃろ」

 「ただの占い師も信者から見れば立派な神、"おタヌキさん"に化けるんや」

 「そのからくりと信者から騙し取った金、それが目当てやったんやけどな・・・」

 「しょうみ、ミイラ取りがミイラになるとこやったで」

 「あ・・・やっぱ兄貴・・・」

 「どアホッ!・・・それもこれもワレのせいで本業がさっぱりなせいやろが!!」

 「すんまへんっ! でも・・・少しは見直してくれはりました?」

 「まぁな・・・ワレが花瓶でタヌキ婆ぁのどたまカチ割った音で目が覚めたわ。ありがとさん。改めて礼言うでター公」

 「へへへ・・・兄貴からそう言われると・・・」

 「せやけど兄貴までたらし込むとは相当なもんでんなぁあのタヌキ婆ぁ」

 「そや。あの人たらしの技こそが欲しかったんや。そやけど・・・」

 「そやけど?」

 「しょうみワシにはまねがでけん。それがよう分かった」

 「信者連中もみんな自ら喜んで騙されとるんや。騙されること自体が生きがいなんや。ハナからワシらの次元とちゃう」

 「そういえば、兄貴も薄気味悪いぐらい生き生きしてましたもんなぁ。嬉々としてパチモンチラシ貼ってまわったりして」

 「ボケッ!・・・いったん信じてしまうとそうなってしまうんや。自分が自分でなくなってしまう」

 「それが心底怖いところや。ワシにはようでけん。人の人生まで丸ごと掠め取るなんぞ荷が重過ぎるで」

 「まさに宗教や。宗教に手ぇ出したらあかん。それがよう分かった」

 「せやけど兄貴、宗教は究極の詐欺や言うてましたがな」

 「前言撤回や。あんなもん目指したらあかん。人間駄目になる」

 「金だけ掠め取るのがまっとうな詐欺や。ワシらはそれで十分や」

 「はぁぁ・・・そんなもんでっか」

 「そや。もっぺん本業に立ち返るんや。目が覚めたわ」

 「それそれ! 何事も初心忘るべからずってね!!」

 「ター公、ワレ、いつからいっぱしの・・・ほなら新手の詐欺のひとつでも思いついたんかい」

 「そ・・・それは・・・」

 「ええかター公。わしらは零細ながら、これからもまっとうな詐欺で生き抜いてゆくんや」

 「そのためには知恵と汗絞るしかないんや。分かったかこのドアホッ!!」

 「すんまへんっ!!」



 そんな風に頭からどやしつけられながらも
 いつもの兄貴が戻ってきてくれた嬉しさを隠しきれないター公でした。