へそ曲がり5
えーーー。
今日は目出度い河馬子の祝言です。
もちろん相手はあの、一撃でへそ曲がりをノックアウトした春樹さん。
しかし式の間中そわそわと落ち着きがないのは花嫁である河馬子その人でした。
"式がこのまま無事に終わるはずがない"
もっともな心配でしょうな。
なにせ父親はあのへそ曲がりです。
"またなにか人の度肝を抜くようなことをやらかすのではないか"
しかしそんな不安をよそに当のへそ曲がりはいたってノーマルです。
そつなくスピーチもこなし来賓客にも笑顔でへこへこと酌を注いで回ります。
さすがに愛娘の結婚式では自重すべく、へそ曲がりの虫を懸命に押さえ込んでいるのでしょうか。
自分を殺して与えられた役を淡々とこなしているのでしょうか。
ともかくどこにでもいる花嫁の父親でした。
ここまでは・・・
そして最後はお定まりのセレモニー。
"今日は私のために精一杯我慢してくれたのね"
と感謝でいっぱいの河馬子がうるうると父親に花束を手渡そうとしたその瞬間。
へそ曲がりはやおら拳銃を抜き放ちます。
パンパパン!
傍らの花婿春樹さんが血しぶきを上げて吹っ飛びます。
瞬間凍りつく場内。周囲の悲鳴はその後です。
へそ曲がりは既に駆け出しています。
「走れ!」
と強引に河馬子の手をとって。
"花嫁を強奪した父親はワシが初めてやろな"
むろんしてやったりの笑みが口元にこびりついています。
しかしその手を振り切る河馬子。
もちろん顔面蒼白です。
「お父様! なんてことを!」
倒れた新郎にダッと駆け寄ります。
「春樹さん!」
じわりと広がる血溜まり。
「誰か!」
パニック状態で叫びます。
「誰か救急車を!!」
と、むっくり起き上がる新郎。
「だいじょうぶ」
なぜか照れ笑いを浮かべています。
「話が違うじゃないですかお父さん」
へそ曲がりに食って掛かります。
そしてタキシードの胸元から血袋(中身は赤ペンキ)を投げ捨て立ち上がります。
「あのまま河馬子さんとどこに行くつもりだったんです?」
しかしふんと鼻を鳴らしたへそ曲がり
「河馬子がほしかったらワシを倒すことだ」
にたりと笑い、いつの間にやら木刀を構えています。
「今度はあの時のようにはいかんぞ」
「あれは帳消しじゃなかったんですか? これで」
「あまい!」
問答無用で振り下ろされる木刀。
しかし
スパーン!
と鳴ったのは新郎の頬でした。
思いっきり新郎を張り倒した後、ふと向き直る河馬子。
「な・・・」
思わず後じさるへそ曲がり。
河馬子の様子がいつもと違います。
彼女の周りの空間までがぐにゃりと歪んで見えるほどです。
「お気に召しました? お父様」
うつむき加減の河馬子。
「さぞ痛快でしょうね」
表情は読み取れません。
「ホラ、みんなバカみたいにぽかんと口あけて・・・」
周囲をざっと見渡しくすっと笑ったみたいです。
やはり顔を伏せたまま、でもその肩は小刻みに震えています。
「でも・・・わたしの結婚式なんです」
純白ウェデングドレスに飛び散った血の班点(実は赤ペンキ)までフルフル震えています。
「お父様。あなたの娘の結婚式なんです」
「もう少し大人になってくださいね」
静かな声です。
「でないと・・・」
消え入るような声です。
「でないと・・・わたし・・・」
真紅の絨毯をぽたぽた濡らすしずく。
それを振り払うようにダッと駆け出す河馬子。
ハッと我に返って後を追うへそ曲がり。
すぐさま河馬子に追いつきエントランスに立ちふさがります。
そしてゆるりと木刀を構えなおすやあの決め台詞。
「お前もワシを倒して行くことだ」
その瞬間
「お父様のバカぁ!!!!!!」
場内に木霊するほどの張り手音。
「・・・でかした河馬子」
がくっと膝をつくへそ曲がり。
「さすがは・・・わしの娘・・・」
そして金箔のエントランス扉だけがギィギィゆれていたそうです。