肛門くん4



 とある斎場。
 一般焼香客用の椅子席に座る三人組。

 サル「・・・・・・」

 カニ「胃癌って本当だったんだね」

 茶釜「*(肛門)でも葬式やるんだな」

 サルがいらいらとネクタイを緩めます。

 サル「へっ! せいせいしたぜ。バカがいなくなってよ」

 カニ「気持ちは分かるよ」

 茶釜「そうそう。君が一番仲良かったもんね」

 それを聞いてサルが声を荒げます。

 サル「ナニ言ってんだてめぇら!」

 カニ「素直になりなよ。こんな時ぐらい」

 茶釜「しっ! 声がでかいよ」

 茶釜に促されて視線を転じると

 サル「・・・誰だ?」

 カニ「見てわかんない? 喪主の奥さんだよ」

 茶釜「しっ! こっち睨んでるよ」

 黒の喪服に身を包んだ*婦人がすすっと三人組に歩み寄り

 「サルさん、カニさん、それに茶釜さんですね」

 ぺこりと頭を下げます。

 「この度は主人がいろいろお世話になったそうで・・・」

 サル "てめぇは付き添いもしねぇでなにやってたんだよ!"

 カニ "どちらかというと世話になったのは俺たちの方なんですけど"

 茶釜 "*でも喪服着るんだな"

 「つきましては亡き夫の遺言の件についてウチの弁護士からお話させていただきたいことがありまして」

 サル "へっ! *のくせに弁護士やとってんじゃねぇよ"

 カニ "え? 遺言って?"

 茶釜 "俺たちになんか関係あんの"

別室に通された三人組に弁護士が語ったのは驚くべき内容でした。

 サル 「さっ・・・」

 カニ 「さっさっ・・・」

 茶釜 「さっさっさっ・・・三億円?!」

 「さよう。*氏はその遺言で遺産の中から三億円を皆さんにお譲りしたいと・・・」

 あまりの驚きにサルはお供えのバナナに手を出し、カニはぶくぶくと泡を立て、茶釜はしゅしゅうと茶を沸かし始めます。
 *家の顧問弁護士はコホンと咳払いしてから遺言の内容を読み上げます。

 「みんな本当にありがとう。最期まで変わらぬ友情を注いでくれたのは君たちだけだったよ」

 「もうコンビニでうまい棒やアイスキャンディーも買ってあげられなくなるけど、その分すこしばかりみんなにお金を残してあげたいと思うんだ・・・」

 興奮のあまりサルはバナナの皮に滑って転び、カニはシャボンで別室をいっぱいにし、茶釜は入れたての煎茶を差し出します。
 そんな興奮に水を差すようにすっと一枚の書面が差し出されます。

 「そこで皆さんにお願いがあるのです」

 いつの間にやらあの未亡人が傍らにうっそりと控えています。

 「特定受遺者としての権利を放棄していただきたいのです」

 それを聞いてサルはバナナの皮から起き上がり、カニはシャボンで咳き込み、茶釜は煎茶を自分でごくりと飲み干してしまいます。

 「つまり三億円を諦めてほしいのです」

 書面には"遺贈放棄承諾書"と書かれてありました。

 サル 「なんでだよ!」

 カニ 「どうして?」

 茶釜 「なぜ!」

 「なぜなら皆さんがサル、カニ、茶釜だからです」

 未亡人が冷たく言い放ちます。

 サル 「なんだとコラ! サルをバカにすんのか!」

 カニ 「え? カニじゃだめなの?」

 茶釜 「確かに茶釜ですけど何か・・・」

 弁護士もしかつめらしく言葉を濁します。

 「失礼ですが私もサル、カニ、茶釜に遺贈を受ける権利主体としての法的地位は認められないと・・・」

 そこへ幼い女の子が駆け込んできます。

 「ママァ! 探したよ!!」

 「こんなところでナニやってるの?」

 未亡人の喪服のすそにまとわりつきます。

 「これこれダメですよ。今大事なお話をしているところですからね・・・」
 
 と、優しく女の子を外に出してからキッと向き直る未亡人。

 「皆さんは、あの子の将来をどうお考えですか?」

 「あの子にはこれからもいっぱいお金がかかるんです!」

 「でも大黒柱を失った私たちには、もう遺産のほかには一銭も・・・」

 そう言ってわっと泣き崩れる未亡人。    

 サル "へっ! 臭い芝居してんじゃねぇよ"

 カニ "でも別居してたんじゃないの?"

 茶釜 "結局は金か・・・冷え切ってたんだろうな"

 サルがやおら手を伸ばして承諾書に"サル"と書き込みます。
 そして傍らでぼうっと見ている二人を怒鳴りつけます。

 サル 「おめぇらもサインするんだよ!」

 カニ 「え・・・でも」

 茶釜 「僕らは・・・別に」

 サル 「いいからサインしろ!!」

 サルのあまりの剣幕に押されてしぶしぶ承諾書にサインするカニと茶釜。
 そして席を蹴って出て行くサルのあとを追いかけます。
 追いついた二人にサルが陽気に声をかけます。

 サル 「もともとあんな金、欲しくもねぇよな!」

 カニ "うそつき"

 茶釜 "舞い上がってバナナで滑ってたくせに"

 サル 「それに*のやつもどうかしてるぜ。俺たちなんかに三億もよ!」

 カニ "強情っぱり"

 茶釜 "三億あれば・・・最高級の玉露がいったい何杯・・・"




 一方、別室ではけろっと泣き止んだ未亡人が遺贈放棄承諾書に目を通しています

 「これで一件落着ね」

 「はい」

 「あの三バカトリオには後で"うまい棒"の詰め合わせでも贈っといて」

 「わかりました」

 そしてフンと鼻を鳴らす未亡人。

 「もともとサルやカニや茶釜なんかにお金なんて要らないのよ」

  "そういうアンタだって*じゃないか"

 と、つい口が滑りそうになるのを必死でこらえ
 そそくさと書類を鞄にしまいこむ*家顧問弁護士でした。