商売15



 「暑いでんなぁ兄貴ィ」

 「せやな」

 「ホンマ死人の出る暑さでんなぁ」

 「せやな」

 「しょうみワシらこの夏乗り切れるんでっしゃろか」

 「じゃかあしわいっ! さっきからおんなじこと何べんも!」

 「せやけどエアコンぐらい何とかならんのでっか」

 「銭がないのやさけしゃあないやろがボケッ!」

 「やったらなんか手っ取り早よう儲ける手はないんでっか?」

 「・・・ないこともないけどな」

 「ほんまでっか」

 「これ見てみ」

 「二十代男性高額募集・・・一日20万以上!!」

 「闇サイトの求人広告や」

 「せやけど何させられるんでっしゃろな」

 「ワシの睨んだところ、ずばり"出し子"の募集やな」

 「出し子?」

 「振り込め詐欺の口座や偽造キャッシュカードでATMから現金引き出す役や」

 「そんなんで一日20万やったらワシ『ドアホっ! 裏仕事をなめたらあかんど」

 「終日あっちゃこちゃATMたらいまわしさせられた挙句、それがマークされてる口座やったら引き出した時点で警官が飛んできて即逮捕や」

 「ひえぇぇ」

 「要するに"出し子"は使い捨ての防波堤や。元締めに危険が及ばんようにするためのな」

 「えげつないでんなぁ」

 「日銭につられて食いつくんはよほどケツ割った多重債務者か世間知らずのニートぐらいや」

 「・・・そうでっしゃろな」

 「せやけど持ち逃げする手はある」

 「持ち逃げ?」

 「せや。詐欺の原点、持ち逃げや。下ろした全額のな」

 「詐欺グループを騙すんでっか? せやけど、ちゃんと見張りがいてるんやないんですか」

 「そいつはワシが何とかする。わしらはチームやろが」

 「・・・・」

 「どや。やってみるかター公」

 「・・・せやけど・・・もし警察に捕まったら」

 「心配せんでええ。ヘタ打ってもバイトとわかりゃ実刑にはならん・・・はずや」

 「どや。エヤコン代ぐらいすぐに稼げるでぇ」

 「やったりま。それに同業を騙すっちゅうのもなかなか痛快でんな」


 そして翌日。
 都内の某駐車場。
 その隅にボロ雑巾のように横たわるター公。

 「しっかりせぇ! ター公」

 「あ・・・兄貴ィ・・・」

 「ワシ・・・またヘタ打って・・・せっかくの五十万」ゴフッ!!

 血を吐くター公。

 「もうしゃべるな! すぐ救急車来るさけな!」

 「せやけど・・・せっかくの五十万・・・丸ごと連中に・・・」

 「もうええ! ワシの誤算や。まさか見張りがあんなにいてるとはな」

 「せやけど連中の後つけてアジトはきっちり確かめた。サツに通報しといたさけ今頃一網打尽や。ワレの敵はうっといたさけな」

 「さすがぁ兄貴・・・おおきに・・・」

 「せやけど・・・ホンマわし・・・最後の最後までドジで・・・かんべん」ゴフッ!!

 「しゃべるなゆうてるやろがボケッ!! ナニ笑ろてんのや!」

 「兄貴に怒鳴られるんも・・・これが最後や思たら・・・なんや懐かしゅうて」

 ふっと言葉が途切れ
 そのままがっくしなるター公。

 「ター公っ! しっかりせぇ!!」

 「ナニ死んだ振りしてるんや!! ええかげんにせぇ!!」

 「ター公っ!! ター公ーーーーっ!!」

 そしてむっくり起き上がるター公。

 「あれ・・・泣いてはるんでっか兄貴」

 「・・・・」

 「すんまへん。こんなん一度やってみてたかったんですわ」

 「・・・・」

 「せやけど救急車、遅いでんなぁ」




 十分後。
 救急車が到着した時
 なぜか昏倒していたター公は全身打撲で全治一ヶ月。
 エアコンどころか入院費でさらに借金がかさんだという。