へそ曲がり6
えーーー。
あのへそ曲がりですが、その後どうなったんでしょうな。
そう。一人娘、河馬子の結婚式を発砲騒ぎでめちゃくちゃにぶち壊したあのへそ曲がりです。
案の定、その後河馬子からはなんの音沙汰もなく、電話しても一方的に切られてしまうなどほとんど逆勘当状態です。
ところがそんな中、風の噂に子供が生まれた事を知ります。
しかも男の子だというじゃありませんか。
そうなってみるとへそ曲がりもやはり人の子ですな。
初孫の顔を見たくて見たくてもう居ても立ってもいられません。
かといって新居に招かれることもなく向こうから出向いてくれるはずもありません。
そうなると、もう残された手はただ一つ・・・
そして河馬子の新居のマンション前。
電信柱の陰で数時間ばかりも張り込んだ挙句
ようやっと河馬子がエントランスから出て行くのを確認したへそ曲がり。
そうっと新居に忍び込みます。もちろん玄関ドアの鍵をこじ開けるなど造作もありません。
なんといっても、かつては刑務所の塀を逆向きに乗り越えてお縄に付いたこともあるツワモノです。
そして居間のベビーベッドの中。
すやすやと寝息をたてる念願の初孫と対面します。
「おおっ!!」
まさしく玉のような赤ん坊です。
感極まって思わず殴りつけそうになる自分をぐっとこらえ
「ええ子や」
小声で話しかけます。
「いつ生まれたんや?」
真っ赤な頬をちくちく指でつつきながら。
「名前はなんちゅうんや? ええ?」
するとパッチリ目を開ける赤ん坊。
「おおっ! ほんまに可愛いやっちゃなぁ!」
「おじいちゃんやぞ。わかるか?」
しばし、じっと見つめるつぶらな瞳。
が、小さな唇がひくひく痙攣したと思うや
びえええぇぇぇ!!
大声で泣き出してしまいます。
もちろん驚いたのはへそ曲がりです。
その辺にころがっていたクマのぬいぐるみやカラガラを手にさかんにあやしますが
びえええええぇぇぇぇぇ!!
一向に泣き止むどころか、それこそマンション中に轟きわたるような勢いです。
おろおろうろたえるへそ曲がり。
「こらっ! 静かにせぇ!」
「怪しいもんとちゃう!」
「おじいちゃんやゆうとるやろが!!」
大パニックのへそ曲がり
ペシッ
思わず赤ん坊の頬を軽く張ってしまいます。
するとどうでしょう。
ぴたりと泣き止んだ赤ん坊。
今度は逆にキャッキャと笑い始めたではありませんか。
「なんと・・・」
いたく感じ入るへそ曲がり。
「さすがはワシの孫!」
「張られて逆に笑い出すとは・・・」
そして何を思ったか、今度は赤ん坊の足をつかんで逆さ吊りにしてみます。
すると前にもましてキャッキャとたいそうな嬉しがりようです。
"へそ曲がり遺伝子"は孫にも脈々と受け継がれているようです。
それから数十分・・・
夢のような時間が過ぎてゆきます。
が、夢中で初孫と遊ぶへそ曲がりの背中にふと声が。
「なにしてるの?」
「・・・え?」
振り返るへそ曲がり。
そこにはいつしかあの河馬子。
氷の柱のように静かに立っています。
暗くて表情は読み取れませんが手にした買い物袋だけが小刻みに震えているようです。
「だからそこでなにしてるの? お父様」
低く、静かな、底冷えのするような声です。
「何って・・・その・・・つまり・・・これはだな・・・」
虚を突かれ、苦笑いを浮かべてしどろもどろに取り繕うへそ曲がり。
でもその手はベランダの手すり越しに赤ん坊の片足をつかんでいたそうな。
五階から逆さづりにされたままキャッキャと大はしゃぎの赤ん坊のその片足を。