精米所のピアニスト11
夜。
西日暮里のコンビニエンス二階。
ショパンのノクターンを奏でる少女が一人。
窓辺から差し込む月明かりも妙なる調べに誘われ漆黒の髪に揺れるそんな夜・・・
ドカッ!!
ドアを蹴破るようにして飛び込んできた男。
投げ捨てられたヌンチャクとともにフロアにごろりと転がった。
「あら・・・」
ふと鍵盤の手を止めて目を凝らす少女。
リヒタースクール正規生の一人、王麗妃。
「誰かと思えば・・・」
そしてロープでぐるぐる巻きにされた男の後ろから現れたのは
「五郎池タメ子よ。スクールメイトの名前ぐらい覚えなさい」
「あら・・・」
フッと鼻で笑う王麗妃。
「土下座してお情けで入れてもらった補欠生なんかスクールメイトの内に入らなくってよ」
怒りをこらえギリリと歯を剥くタメ子。
「あんたナニたくらんでるの? こそこそスパイの真似なんかして」
「・・・・」
「この男、あんたの手下よね」
足元の男を勝ち誇ったように指差して
「藤道君の様子探らせてたでしょ。ネタは割れてんのよっ!」
未だ失神状態の男。その頬は強烈な往復ビンタで真っ赤に腫れ上がっていた。
「ピアノの腕はともかく腕力だけはたいしたものね。タメ子さん」
動じた風もなくクスッと嗤って王麗妃。
「どう? ピアノなんかやめて私の新しいボディガードにならない?」
「とぼけんじゃないわよっ!!」
くわっと吼えるタメ子。
「藤道君をスパイしてどうするつもりっ!?」
「あら・・・」
意外そうに首をかしげながら王麗妃。
「私がさとる様に関心があるからって、それがあなたに何の関係があるのかしら?」
「さとる様ぁ?・・・」
「あなた、さとる様の保護者じゃないでしょう?」
「まさか許婚(いいなずけ)にしては年食ってるしねぇ。おばさん」
「お・・・お・・・おばさん!?」
ただでさえ大きな目をピンポン玉のようにしてぶるぶる怒りに震えるタメ子。
「あら怖い。私にも得意の暴力ふるうおつもり?」
ホホホと嗤って王麗妃。
「それならいっそピアノバトルはどうかしら?」
「あなたもリヒターチルドレンの一人だと言うのならピアノで決着つけるのが筋じゃないかしら?」
「こっちは補欠生なんかの相手してあげるだけで感謝してもらいたいぐらいなんだけど」
押し黙り俯き加減でしばし思案をめぐらした後
「わかったわ」
きっぱりとタメ子。
「その代わり私が勝ったらもう藤道君にちょっかい出すんじゃないわよ!」
アッハハハと今度は腹を抱えて嗤ってから王麗妃。
「だいじょうぶ。万が一にもそんなことは起こらないでしょうから」
そして静かに向き直り
「でも私が勝った後は補欠も辞退してリヒタースクールを辞めてもらいます」
じっと目を見て念を押すように王麗妃。
「いいこと? タメ子さん」
「もともと目障りなのよ。リヒタースクールはあなたみたいな汗臭い凡人のいる場所じゃないの」
「それをこれから教えて差し上げるわ」
「凡人でもね・・・」
目をギラギラさせてタメ子、低く声を押し出すように
「汗臭い凡人でもその汗に裏打ちされたプライド持ってること・・・逆にあんたに教えてあげる」
そして
開いたドアの外。
じっと息を凝らす影二つ。
「ねっ! 言ったとおりだろ?」
興奮気味のレオナルド・チャンドラ。
「ひょおおお! うらやましいねぇ!!」
懸命に声を押し殺し
「男をめぐって二人の女が大激突!!」
うまい棒をサクサクかじりながら
「いよっ、色男!!」
そしてバシッと背中をたたかれた藤道君。
でもその目は深い愁いに沈んでいるようでした。
「無茶だよ・・・タメ子さん」