へそ曲がり7
えーーー。
あのへそ曲がりですが、その後どうなったんでしょうな。
初孫をマンション五階のベランダから逆さ吊りにして母親を凍りつかせたあのへそ曲がりです。
案の定、一人娘の河馬子からは今後一切、息子に近寄らないようきつく引導を渡されてしまいます。
ちょっとした所用で家を空ける折も雇ったガードマンに最危険人物としてへそ曲がりの写真を携帯させるほどの厳重警戒態勢で一歩たりとも息子に寄せ付けません。
釈明しようにも電話にも出てくれず、出した手紙も全て受け取り拒否で戻ってきてしまう始末です。
これにはさすがのへそ曲がりもこたえたようですな。
そして事件が起こります。
ある日の午後。
生後10ヶ月の"コウスケ"を寝かしつけテレビを見ていた河馬子。
その目にふと、信じられない光景が飛び込んできます。
東京タワー中腹の鉄骨に腰をかけ今にも飛び降りそうなそぶりの老人。
望遠でアップされたその姿は、まぎれもないあの父親、へそ曲がりだったのです。
下では消防署のはしご車やレスキュー隊、そして各局中継車がひしめく大変な騒ぎとなっている様子。
青ざめた河馬子はもちろん急いでタクシーに飛び乗ります。
"本当に悪かった。許しておくれ"
都心に急ぐ車内、へそ曲がりの言葉とともに悔悟の念が沸き起こります。
"それでも一目だけでも孫に合わせてくれれば死んでもいいと思っている"
自殺などとは対極の人間だと思っていたあの父親が・・・
真の内面は意外と繊細で傷つきやすい人だったのかもしれない。
でも今となっては間に合ってくれと、ただそれを祈るばかりです。
が・・・
現場に到着すると既にあらかた騒ぎは収まっていました。
はしご車や中継車も引き上げ物見高い野次馬たちも散り散りに立ち去ってゆきます。
聞くと、あのお騒がせ老人は自ら階段でタワーを降り逃げるように走り去ってしまったとの事・・・
それを聞いてほっと安堵すると同時に河馬子の胸に不吉な予感がよぎります。
すぐにまたタクシーを拾って自宅に急ぎます。
まさか・・・
そう。家にはコウスケを残して来ています。
そして自宅警備員をつけずに家を空けたのは初めてのことです。
でもまさか、そこまで計算してあの父親は・・・
タクシーを降りるやエレベータももどかしく階段を一気に駆け上る河馬子。
そして部屋に飛び込むやあっと息を呑みます。
猿轡をかまされぐるぐる巻きに縛られた夫。
そして主のいないベビーベッド。
「こうすけ!!」
半狂乱で縄を解き夫を問いただすも、あっという間の誘拐劇だったようです。
「コウスケぇ!!」
怒涛のように向かった先、へそ曲がりの自宅は既にもぬけの空。
その場にがっくし力なくへたり込む河馬子。
それでもあの父親です。あのへそ曲がりです。
もう何をしでかすか見当もつきません。
コウスケ・・・
不安に押しつぶされそうになりながらも警察に電話しようとしたその矢先。
つけっぱなしのテレビに目がとまります。
今度は六本木ヒルズの日本一高い屋上展望台"スカイデッキ"から生中継です。
「東京タワーから忽然と姿を消したあのお騒がせ老人です!!」
レポーターが血相変えてまくし立てます。
「今度はなんと、幼い赤ん坊を抱えているようです!」
河馬子の息が止まり心臓がドクンと脈打ちます。
「そして今、フェンスも乗り越え・・・おおっ!・・赤ん坊の片足を持って・・・なんと!・・・」
絶句するレポーター。
そこには地上238メートルから逆さ吊りにされてなおきゃっきゃとはしゃぐコウスケと満面笑みのへそ曲がりが映し出されていたそうな。