商売17



 ふと思い出したように

 「あ・・・そや」

 ぽんと手をたたいて兄貴。

 「ワシ、用事があったんや」

 札束をポケットにねじ込みそそくさと腰を上げる。

 「ちょっと待ちなさいよ!」

 むんずとその腕をつかむ女。逃がすまじ。

 「お金、置いていきなさいよ!」

 「あんた、ター君の半年分の給料、持ち逃げするつもり?!」

 「サッちゃん!」

 慌てて間に割って入るター公。

 「ええんやサッちゃん!」

 「それ、ワシが兄貴に用立てた金やさかい」

 「兄貴?・・・」

 えっと目を剥く女。

 「・・・お兄さん? ター君の?」

 「まぁ・・・そんなもんかな」

 次いで照れ笑いのター公。
 はっとつかんでいた腕を放して女。

 「・・・そうとは知らず、失礼しました!」

 恐縮しきった体で直角に頭を下げる。

 「いやいや・・・ハハハハ」

 一転、鷹揚な笑みをにじませ腰を下ろす兄貴。

 「どうやら妙な誤解を招いてしまったようですな」

 言葉遣いまでがらりと変わっている。
 そしてター公に向き直り

 「たかし。いいお嬢さんじゃないか」

 「どうしてもっと早く紹介してくれなかったのかな? この兄さんに」

 ぽかんと口を開けたまま、目をぱちくりさせるター公。
 かまわずポケットにねじ込んだ札束を取り出しすっと差し出しながら兄貴。

 「でも、せっかく用立ててくれた金だが、これは受け取れないな」

 「まさかお前の半年分の給料だったとは・・・」

 「知らなかったとは言え、お前に無理な相談をした兄さんがバカだった」

 「許してくれ。このとおりだ」

 ぺこりと頭を下げる兄貴。

 「あ・・・兄貴ぃ・・・」

 「いいんだ・・・金は自分で何とか工面する。心配しないでくれ」

 「なぁにだいじょうぶ。兄さんの会社はたかが50万ぽっちで倒産するような会社じゃない」

 そう言いながら札束を無理にもター公に握らせる。
 それからふと女の方に向き直り

 「サッちゃんさんでしたかな・・・」

 「こんなバカな兄ですが礼を言わせてください」

 「よくぞ止めてくれました」

 「あやうく人の道を踏み外すところでした」

 そっと女の手を取り優しく頷く兄貴。

 「そ・・・そんな!・・・」

 真っ赤になって下を向く女。
 そのまますっと立ち上がりドアに向かいながら兄貴。

 「あ・・・そうそう」

 「兄さんの会社が持ち直したら、どこかに家でも建ててまた三人で一緒に暮らそうじゃないか」

 「生き別れになった妹の加代子も千葉の施設から出してやって、またあの頃のように三人で・・・なぁたかし」

 「幼くして父に死なれ母にも捨てられ、その後散り散りになった天涯孤独の兄弟妹三人、また肩を寄せ合ってあの頃のように・・・な」

 「おっと・・・そこの素敵なお嬢さんとお前が所帯を持つまでなら、いいだろう?・・・ハハハ」

 そう笑って立ち去る兄貴。
 その優しい笑みだけが戸口に漂っているようであった。
 それでも今だぽかんと口を開いたまま何がなんだか分からないター公。
 それとは対照的に女は震えていた。

 「あ・・・あたし・・・あんな立派で・・・優しいお兄さんに・・・」

 女は真っ赤になって震えていた。

 「それに・・・ター君の気持ちも知らずに・・・あたし・・・なんてこと・・・」

 下を向いたまま真っ赤になって震えていた。

 「ごめんなさーーいっ!!」

 そのままわっと泣き崩れる女。
 頬からぽたぽた零れる大粒のしずく。

 「サッちゃん!!」

 はっと我に返るや
 またもおろおろするだけのター公であった。
 はてさて・・・・どうなることやら・・・・・・