商売18



 「どや、その後」

 「兄貴ぃ! なんですのんアレ。ワシもうさっぱり訳が・・・」

 「全部アドリブや。たいしたもんやろが」

 「アドリブて・・・」

 「ワシぐらいになったら臨機応変でアレぐらいいくらでもカマせるんや」

 「はぁぁ・・・さすがでんなぁ兄貴」

 「ところで、愛しのサッちゃんはどないや?」

 「それでんがな! もう大泣きに泣かれてワシどない言うてええのか『せやろが」

 「ワシにかかったらあんな小娘、赤子の手ぇひねるようなもんや」

 「せやけど、せっかくワシが工面した金まで返すなんて兄貴らしゅうないでんな」

 「ドアホッ! あんなはした金で銭の成る樹逃す手はないで」

 「え? まだカモるつもりでっか」

 「カモらいでか。それともワレ、まだあんなジャジャ馬と所帯もって完全にケツに敷かれたいんか?」

 「へへへ・・・ええケツしてまっしゃろ。アレなら敷かれてもええなぁ思てワシ」

 「しゃぁないやっちゃなぁホンマ・・・まぁええ分かった。ワシが取り持ったろ」

 「ほんまでっか!」

 「可愛い弟分のためや。一肌脱いだろやないか」

 「兄貴ぃ・・・」





 数週間後。
 江戸川経済新聞亀有販売店前。
 静かに止まる場違いな黒塗りリムジン。

 「ごめんください」

 中から鷹揚に現れたのは羽織袴姿の紳士であった。

 「サッちゃんさんはおられますかな」

 中で新聞束を数えていた店主の禿げ親父。
 しばし惚けたように眼鏡目をしばたたいていたが

 「おーい幸絵! お客さんだ!」

 ドラ声で奥に呼びかける。

 「はーーいっ」

 ドタドタと二階から降りてくる娘。
 それを見るや山高帽を手に取り頭を下げる紳士。

 「その節はどうも」

 鼻下にちょび髭まで蓄えた紳士はにこやかに笑った。

 「弟のたかしがいろいろとお世話になりました」

 「お・・・」

 ぽかんと開いた娘の口。
 眼窩からそのままポンと弾け飛びそうな目。

 「お兄様!!」

 たちまちガバッとひれ伏す娘。  
 
 「こちらこそ失礼しました!」

 真っ赤になってしどろもどろに

 「あ・・あの時は・・ほ・・本当に何も知らずに『まぁまぁまぁ」

 笑って制止する紳士。

 「顔を上げてください幸絵さん」

 「お蔭様でうちの会社も持ち直しました。今日はその節のお礼がてら・・・」

 と、店内を見渡しながら

 「ところで・・・たかしは・・・・」

 「ター君・・・いえ、た・・・たかしさんは今、勧誘回りに・・・」

 真っ赤になって未だしどろもどろのサッちゃん。
 店主の禿げ親父と数名のバイトだけがあっけに取られた様子で二人のやり取りを眺めていた。

 「そうですか。真面目に仕事に励んでるようですな」

 「一時はグレて手の付けられなかったたかしが・・・こうしてまっとうな・・・」

 「それもこれも・・・幸絵さん、あなたがたかしのそばに・・・」

 言葉に詰まり、しばし目頭を指でつまんだ後
 店の入り口で控えていた付き人に目で合図を送る紳士。
 付き人が重そうに運んできたのは一抱えもある袱紗の包みであった。

 「受け取ってください」

 結び目を解くと中には 

 「結納です」

 金の延べ棒。
 三段に積まれていた。 
 しんと静まり返る店内。
 薄暗い店内にそこだけ射した黄金の光。
 上がり口で正座したまま凝固してしまう娘。
 禿げ親父の手からはらはらと滑り落ちるスーパーの広告チラシ。
 そこへ

 「おつかれーーーっ!」

 能天気な挨拶ととも原付でブブーッと乗り付けたのは

 「やったーっ! 新規二件取れましたーっ!」

 ター公あるいはター君こと、たかし君であった。

 「あれ?・・・」

 場違いなリムジンや店内のただならぬ気配にふと足を止める。
 それでもにこやかに声をかける紳士。

 「待ってたんだ。たかし」

 ギョッとなって後ずさるたかし君。
 いぶかしげに目を凝らした後、ためらいがちに一言。

 「あ・・・兄貴ぃ?」