ボクは将軍様13



 ピョンヤン市内。
 指導者たちだけの特別施設"烽火病院"。
 極秘の警備態勢が敷かれた4F集中治療室前。
 深刻な面持ちで押し黙る党幹部、人民軍司令官、高級官僚たち・・・
 やがて 

  カチャ

 とドアが開き、中から現れた一人の医師。
 苦渋の表情で首を振る。

 「将軍様!!」

 たまらず一人がそう呻くや、どっと中になだれ込む側近たち。   
 ただっ広い窓無し部屋。厳しく立ち並ぶ最新医療機器類。
 そしてベッドに横たわる衰弱しきった身体。

 「14時23分・・・」

 医師団の長が重々しく口を開く。

 「死因はおそらく、糖尿病による脳溢血と急性心不全・・・」

 「しょ・・・将軍さまぁ!」

 がくりと崩折れ床に突っ伏す党幹部。

 「い・・・偉大なる首領さまぁ!!」

 ベッドを取り巻く震える肩。声にならない嗚咽。ポタポタ床をぬらす涙。
 そっと背景に退き、ただただ無念の思いを噛み締める医師団。
 そんな中

  バカッ

 とドアが開き
 フンフフンと鼻歌交じりに入ってくる男。

 「なーんちゃって!」

 とスキップ踏み踏み

 「なーんちゃって!」

 とベッドをぐるりと一周するや爆笑一発。

  ギャハハハハハ!!

 最初、あっけに取られていた一団も次第にぐつぐつと怒り心頭。

 「きさまぁ!!」

 そう吼えるや弾丸のように飛び掛る若手将校。

 「替え玉の分際でぇ!!」

 男を組み倒すや有無を言わさずぼこぼこに殴りつける。

 「お前が死ね! 今死ね! 殺してやろうか!!」

 と、腰の拳銃に手をかける。

 「待てっ!!」

 慌てて止めに入る党幹部。

 「今、替え玉を失うのはまずい!」

 が

  バン!!

 既に弾丸は大腿部を貫き

  うっぎゃああああっ!

 激痛に床を転げまわる男。
 そんな騒動をよそに医師団は我が目を疑っていた。
 今死んだばかりの将軍様がベッドにむくりと起き上がっていたからだ。

 「あのぅ・・・」

 彼は言いにくそうに呟いた。

 「実はボクが替え玉で・・・そっちが本物なんスけど」

  へ?

 しばし凝固する室内。 

 「ちょっとみんなをからかってやろうって・・・将軍様が」

 「これ飲めば一時的に死ねるからって・・・そう・・・どうしてもって将軍様が」

 へへへと照れ笑いを浮かべる替え玉一号。

  うぎゃああああっ!

 フロアでのたうつ血まみれ男にじとりと収斂されてゆく視線。
 次の瞬間、色をなした医師団がバッと男に群がったのは言うまでもない。
 以後、将軍様は杖なしで歩けるようになるまで一切公の場に姿を現すことはなかったという。