商売20



 「どや、その後」

 「兄貴ぃーーー」

 「なんやその情けないツラは。スケはちゃんとコマしてるんやろな」

 「サッちゃんあれから熱出して・・・」

 「熱? 病気か? なんでまた」

 「なんでてそんな・・・兄貴が晩餐会やら天皇やら吹きまくったせいでんがな」

 「うわ言にまですみませんすみませんてへこへこ頭下げて・・・」

 「くっくっく・・・」

 笑いをこらえながら兄貴

 「晩餐会でえらい恥かいてる悪夢にでもうなされてるんやろ」

 「笑い事やないです!!」

 キッと食ってかかるター公。

 「なんであんな・・・それにもし彼女が晩餐会に一緒に出る言うたらどうするつもりやったんです?」

 「その時はその時や。なんとでも言いつくろうて・・・」

 「そんな・・・女心もて遊んで楽しいでっか?」

 「ボケッ! 持参金吊り上げてるだけや。立派な駆け引きや」

 「あ、それやったら完全に失敗ですわ」

 「サッちゃんあれから部屋に閉じこもったきりぜんぜん出てこへんし外から声かけても返事もしてくれへんし」

 半泣きの恨めし顔で続けるター公。 

 「完全にビビッてもうて、まさに破談寸前です」

 それを聞いて考え込む兄貴。

 「さよか・・・さすがに天皇は・・・ちとカマしすぎたか・・・」

 次いでぽんと手を打ち

 「よし分かった。何とかしたるからまた誘い出せ」

 「誘い出せて・・・」 

 「ええから誘い出せ。あんじょうとりもったる。またあの江戸川遊歩道がええな」

 「無理です」

 きっぱりとター公。

 「言うたでしょ。ワシにはもう口も利いてくれへんし『ならワシから出向いたる」

 「兄貴が?・・・」

 いかにも不吉そうにター公。 

 「今度はどないするんです?」

 「庶民で攻めるんや」

 「・・・庶民?」

 「せや。高貴の反対は庶民やろが」

 「言うてはる意味が・・よう・・・」

 「ま。見てのお楽しみや」

 そんな兄貴のニタニタ顔に不安を抑えきれないター公でした。



 そして数日後。
 江戸川経済新聞亀有販売店。
 その長女、幸絵の部屋をノックする音。

 「サッちゃん。ワシやけど」

 「・・・」

 「いい加減、開けてくれへんか」

 「・・・・」 

 「ワシだけやない。今日は兄貴がどうしても会いたい言うて・・・」

 「!!・・・・」

 「サッちゃんさん。たかしの兄です。私からもお願い申し上げます」

 ベッドからガバッと起き上がり慌しく身づくろいする幸絵。
 しばし躊躇った後、深呼吸してから意を決してドアを開ける。

 「お久しぶりです」

 ドア口でぺこりと頭を下げる男。
 その格好に思わず目を丸くする幸絵。

 「お・・・お兄様?」

 水色のダボシャツ。駱駝の腹巻き。首から下げたお守り袋。

 「お体の具合はいかがですか?」

 「あれから体調を崩されたと聞いて大変心配しておりました。お元気そうで何よりです」

 肩から羽織った薄茶格子縞のブレザー。そして手には大きなトランク。 
 隣にはもじもじとどこか居心地悪そうなター公。
 しかし男は平然と続けた。

 「また旅に出る前に、こうしてお見舞いに伺った次第です」

 「旅?・・・」

 「今日は東、明日は西への根無し草。無宿渡世のテキヤ家業です」

 「テキヤ?・・・」

 「結構毛だらけ猫灰だらけお尻の回りはクソだらけ。粋な姉ちゃん立小便」

 「・・・はぁ?」 

 さらに男はいきなり隣のター公に向かって歌いかけ

 「どーおーせおいらーはヤクーザーな兄貴。わかあーちゃいるんーだ弟よ」

 それから幸絵に向き直って頭を下げ

 「サッちゃんさん。とかく迷惑掛けがちの未熟者ですが弟を宜しくおたの申します」

 そして手にしたフェルト帽子を被るやくるりと二人に背を向ける。
 去り際には作業場で呆然と突っ立つ禿げ店主にも一声。

 「たっしゃでな。おいちゃん」

 慌てて店口まで駆け出すター公と幸絵。

 「たかし君・・・」

 男の背を目で追いながらポツリと呟く幸絵。

 「お兄さんって・・・どーゆー人?」

 「さぁ・・・」

 さすがに返答に窮するター公でした。